毎月、先生のための給食指導に関する情報を、分かりやすく1枚のイラスト付きの図解資料にまとめ、文章でも詳しくお届けします。
資料はご自由に印刷していただいて構いません。小中学校・保育所での給食指導、クラス担任を持つ先生へ配布する資料としてご活用できます。職員室内・職員会議にて、全職員に回覧していただくことで、組織全体の業務改善・トラブル回避にもつながります。(資料のダウンロードリンクは記事目次のすぐ下にあります。)
今月は「先生でもわかる嘔吐恐怖症」がテーマです。
似たテーマとして以前「先生でもわかる会食恐怖症」という記事を配信していますが、今回紹介する嘔吐恐怖症は「吐くことや気持ち悪くなる事自体が怖い」ことで、食べることや日常のさまざまなことに大きな支障が出る不安障害です。
※「食べることへの不安が強くて、給食の時に気持ち悪くなってしまって食べられない」と言う場合は「会食恐怖症」の方に該当する可能性が高いので「先生でもわかる会食恐怖症」を先に読んでいただくと良いと思います。
今月の解説記事では「嘔吐恐怖症」の解説を中心に、実際の相談事例、調査データ、症状改善への取り組みなどを紹介します。
- 嘔吐恐怖症は「吐くことや気持ち悪くなることが怖い」不安障害の1つ
- 給食が大好きでも、1度の嘔吐体験で食べられなくなることがある
- 当事者の約4割が、自分が吐くことだけではなく周りの人が吐くことへの強い恐怖を抱えている
- 子どもには「どれくらいこわい?」を丁寧に聞きながら、少しずつ行動の範囲を広げていく
●その他、本テーマに関連する解説記事はこちら
▶︎【図解】SOSのサインかも!子どもが給食を食べるのが遅い・吐き出す
▶︎【図解】登校拒否の場合も!給食を食べられなくなった子どうすればいい?
嘔吐恐怖症とは
※「先生でもわかる嘔吐恐怖症」のPDFはこちらから保存・ダウンロード
「嘔吐恐怖症」は、気持ち悪くなることや吐くことに対して、健全ではないレベルでの不安や恐怖を感じ「人と食事をすることができない」他、日常生活に大きな支障が出る不安障害の一種です。
また、当事者への調査によると、100人中38人が「自分とは直接関係ない嘔吐に関連することにも恐怖を強く感じている」と回答するなど、他人が吐くことや気持ち悪くなることにも恐怖を感じることがあるのも特徴で、給食や食事の場面を一緒に過ごすことが苦手な人もいます。
これらによって、子どもが給食が食べられないことがあることから、今回は取り上げました。
実際の相談事例として、先日以下のような相談がきゅうけんに寄せられました。
小学校3年の男の子です。7月初め、給食中におかわりをして、その後嘔吐したようです。これまで給食は大好きだったので、嫌になるのが不思議で驚いています。嘔吐した日をさかいに、給食を嫌がるようになりました。夏休み明けも給食が、いや、学校行くのも、辛い日が続き朝行く時間に、なるとぐずぐずしてしまいます。母親と、一緒に、登校したり迎えに行っています。給食は減らしていいよと担任の先生も対応してくれてましたが、学校に行くのが辛くなってきているし、給食は食べなくてもいいよと言うのがいいのか、学校には登校して、もらいたいのですが、毎日声かけにイライラしたり対応に困ってしまいます。本人の辛さに寄り添いたいですが、どのような対応がよいか悩んでいます。
「これまで給食が大好きだったのに、給食時間中に嘔吐した日を境に食べられなくなった」というのが特徴的ですね。
発症時期ときっかけ
発症時期の調査によると、発症時期に関しては、
- 0〜5歳(小学生未満) (8人/100人中)
- 6〜12歳(小学生の時)(38人/100人中)
- 13〜18歳(中高生の時)(20人/100人中)
- 19歳以降(27人/100人中)
- 覚えていない(7人/100人中)
という回答結果になり、小学生での発症時期が最も多いことも先生方には知ってほしいところです。
「嘔吐恐怖症のきっかけとして一番強いと思うもの」の調査によると自分が嘔吐したことが一番多いことがわかります。
また「小学生くらいの時に自分自身が吐くと親に怒られたから」、「小学生の時に教室で吐いてしまった事をみんなの前で怒られた」など「自分が嘔吐したのを誰かに怒られた」という類の回答も複数ありました。
どうする?子どもがもし吐いてしまったら
また、「友達が吐いていた」とか「吐いている人を怒っている場面を見た」という自分とは直接関係ない出来事でも、発症の引き金になるというのも知っておきたいところです。
ですから、子どもが吐いてしまっても「責めない」「怒らない」ということが大切です。そういう場面に遭遇したら「びっくりしたよね、大丈夫だよ」などと、子どもの感情に寄り添う声かけを心がけましょう。
こちらに関しては「トラウマに?子どもが給食で吐いたら思い出したいこと」もお読みいただければ幸いです。
治療法と改善までの道筋
最後に、嘔吐恐怖症の一般的な治療法や改善までの道筋についてお伝えしていきます。
嘔吐恐怖症の治療の基本は、認知行動療法です。嘔吐への正しい知識を教育したり、歪んだ認知を改善していくためのアプローチをしていきます。そこから少しずつできる行動を広げていきます。
「自分以外の吐くことや気持ち悪くなることも怖い」、「文字、写真、動画なども怖い」などの場合には、テキスト、写真、動画、音声などを使った曝露療法(実際に恐怖場面に敢えて晒すことで、恐怖をの馴化を狙う治療法)が行われる場合もあり、最近ではVRを使った曝露療法などの実践も進んでいます。
また症状に応じて、薬物療法も併用することがあります。一方で、副作用として吐き気ある薬に関しては、強い拒絶反応が見られることがあります。
子どもが嘔吐恐怖症の場合で改善していくまでに大切なのは、個別対応を大切にし、周りの理解があった上で安心できる環境をまず作ることです。
その上で、以下のシートなどを使い「みんなで給食を食べるのはどれくらいこわい?」などとコミュニケーションをとりながら「ちょっと不安があるけどこれくらいなら出来るかも(30前後)」の行動から、少しずつ促していくことがオススメです。
「どれくらいこわい?シートver1.0」のダウンロードはこちらから
編集後記
今月号はいかがでしたか?
今回「嘔吐恐怖症」を取り上げたのは、解説の中でも紹介した「嘔吐への恐怖で給食を食べられなくなった」という相談事例だ届いたことと、私(山口)の最新著書『「吐くのがこわい」がなくなる本』(ダイヤモンド社)がつい先日発売されたことが、たまたま重なったからです。
「吐くことがこわい」のは誰でもそうだと思いますが、当事者の方の中には「死ぬよりも吐くのがこわい」とおっしゃる方がいます。それくらいの怖さなのだと認識していただくと、すこしは当事者の気持ちも分かるかもしれません。
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