先生でも分かる会食恐怖症【2021年2月】

先生でもわかる会食恐怖症(給食) 月刊イラスト付き資料

毎月、先生のための給食指導に関する情報を、分かりやすく1枚の資料にまとめ、文章でも詳しくお届けします。

資料はご自由に印刷していただいて構いません。クラス担任を持つ先生に配布する資料としてご活用できます。また、職員室内や職員会議にて、全職員に回覧していただくことで、業務改善にもつながります。(印刷用資料のダウンロードリンクは目次後の画像のすぐ下にあります。)

今月は「先生でもわかる会食恐怖症」をテーマにしてお届けします。

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会食恐怖症とは?

きゅうけん発行イラスト付き資料「先生でもわかる会食恐怖症」のキャプチャ「先生でもわかる会食恐怖症」の印刷用PDFはこちら※右クリックで保存できます

会食恐怖症とは、人と食事ができない病気です。

具体的には、人と食事をしたり、あるいはその場面を想像するだけで、健全ではない不安感に襲われて、身体症状が現れます。

そして、次第にその不安を避けようとすることで、友人関係、恋愛、仕事などで何らかの支障が出てしまい「本来あるべき健全な社会生活が脅かされている」という状態が、半年以上続いている場合のことも1つの診断基準となり、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)の中では、不安障害群の社交不安症にあたります。

身体症状には個人差がありますが、

  • 吐き気
  • めまい
  • 胃痛
  • 動悸
  • 嚥下障害(食べ物が飲み込めない)
  • 口の乾き
  • 体(主に首や手足)の震え
  • 過剰な発汗
  • 顔面蒼白
  • 緘黙(黙り込んでしまう)
  • 呑気(空気を飲み込んお腹が張る、げっぷがでる、おならをしたくなる)

などが、具体的なものとして見られることが多いです。

きっかけや原因は?

会食恐怖症には、どのようなきっかけがあるのでしょうか?

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が2019年11月に、会食恐怖症の当事者向けインターネットでのアンケート調査を実施しました。

イラスト付きの資料に掲載した以外の結果もいくつか掲載させていただくと、「会食恐怖症の1番のきっかけとなったことを教えてください」という設問に対して、

  • 完食指導や周りからの強要…223人(34.7%)
  • その他、体調不良から…135人(21.0%)
  • 明確には覚えていない…122人(19.0%)
  • 自分や周りの嘔吐に関する体験…115人(17.9%)
  • 周囲からの注目を浴びたことに関する体験…47人(7.3%)

という回答結果に。

さらに「”完食指導や周りからの強要”と答えた方(223人)へお聞きします。具体的にはどのようなシチュエーションで誰からでしたか?」という設問に対しては、

  • 給食で先生から…161人(72.1%)
  • 家族や親戚から…32人(14.3%)
  • クラブ活動の指導者から…21人(9.4%)
  • その他…7人(3.1%)
  • 恋人や友人から…2人(0.8%)

という回答結果もありました。
”完食指導や周りからの強要”と答えた方(223人)へお聞きします。具体的にはどのようなシチュエーションで誰からでしたか?回答結果まとめ
以上から、給食指導と症状の発症には深い関係があることが考えられます。

当事者の声を紹介

今回は、子どもの頃の給食がきっかけで発症したと語る、会食恐怖症の当事者の方に、実際に話を聞くことが出来ました。以下より紹介致します。

小さい頃に偏食があり、小学校の時の給食指導で何度も吐くまで食べさせられ、残すことに恐怖を抱いたのが始まりです。ですから、給食の時間は地獄でした。先生からは叱られ、クラスメイトからもからかわれて、自分はできそこないの人間なんだと思うようになり、自信もなくなっていきました。小さい頃のこの経験はその後長年にわたり自分を苦しめています。特に社会人になってからは、同僚や上司との外でのランチの際に症状が出て、”みんなと同じスピードで全部食べきらなければならない”と思えば思うほど、極度に緊張し、食事が喉を通らなくなることも多く、次第にランチに誘われても何か理由をつけて断るようになっていきました。そのことで付き合いが悪いと思われることも多々あります。また、出張や会議で上司との外食が避けられない時は、食べやすそうな店を事前に検索し、事前にその店に行って食べる練習をしたり、会議の時間帯をランチを避ける時間帯に無理やり設定したり、普通であれば考えなくてもよい調整や準備を行うため、労力を人一倍使っています。会食恐怖症の症状は今の生活で、特に仕事をする上ではとでも大きな障害になっていることは確実です。この症状がなければもっと仕事の成果が上がるだけでなく、人とのコミュニケーションもスムーズになるだろうと思います。そういった意味でも、逃げの姿勢から立ち向かって克服をしていかなければならないと考えています。(40代・男性)

小学校での苦い経験が、その後の人生にも大きく影響することが分かりますね。

治療法や克服の方法は?

会食恐怖症は、主に2つの治療法があります。

1つ目は薬物療法で、薬物療法は心療内科や精神科に行き、医師から向精神薬(抗うつ剤、抗不安薬など)を処方してもらい、一定期間服用するという方法です。

2つ目は精神療法で、精神療法は主に認知行動療法などが該当し、臨床心理士やカウンセラーの力を借りながら、認知の歪みなどに気づいていきながら、段階的に苦手場面に挑戦(段階的曝露)をしていくという方法になります。

また、共通してそれ以外にも、生活習慣の改善なども大切な視点です。

しかし、子どもの場合は、副作用などの影響を考え、薬物療法での治療は一般的に推奨されていません。周りや環境の理解がある上で、安心した食事の時間を過ごすことが大切になります。

給食指導の工夫

会食恐怖症を防ぐ為に、あるいはそういった傾向のある子どもたちに対しては、どのような給食指導が大切になるでしょうか?

イラスト付き資料でお伝えしたように、

  • 嫌がっているのに無理やり食べさせる
  • 食べ切ること(完食)の強要してしまう
  • 緊張感のある時間になってしまっている

などは、特に食べることへの苦手意識のある子どもたちには、食事の時間が苦痛になりやすく、会食恐怖症の発症に繋がる可能性もあります。

また、子どもが精神的な苦痛を感じている場合、体罰に該当する可能性もあります。

参考情報として、文部科学省の『学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例』には「別室指導のため、給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き、一切室外に出ることを許さない。」なども体罰に当たるとの明記があります。

ですから、

  • 苦手な食べ物の提案は優しく投げ掛ける
  • できたことを褒めるようにする
  • 全体的に楽しい時間を意識する

など、「子どもたちにとって楽しい給食時間になっているかどうか?」を考えて、指導するようにしましょう。

詳しくは「【図解】食べない子になんて声をかけたらいい?」もぜひ一度ご覧ください。

最後に

いかがでしたか?

最後に、実際に我が子が給食で会食恐怖症を経験したという、お母さんにその時の経験を聞くことが出来ましたので、以下より紹介させていただきます。

「息子が小学校2年生の時に担任の先生の指導で給食を無理に食べようとし、クラスのみんなの前で戻してしまいました。また戻してしまった事をみんなの前で怒られたようでとても悲しく辛い思いをしたようです。そこから給食を食べることが出来なくなりました。当時は、息子に何が起こっているのか分からず、何故こんな事になってしまったのかと悩んでいました。また”母親の自分のせいなのではないか…”と、強い罪悪感にも襲われました。その思いは今でも時々出てきてしまい、自分も傷ついていたんなだなと思います。息子に症状が出てからは、とにかく症状改善にむけて思いつく事を全て行動に移しました。

  • 登校を渋る時は、私と一緒に登校する
  • みんなと給食が食べられないので、別室で私と一緒に給食を食べる(母である私が付き添い)
  • 担任の先生、教頭先生、スクールカウンセラーの先生、主治医の先生、児童心理の先生などと、何度も解決に向けて話しあう
  • 何が起こっているのか病名も分からなかったので、自分なりに情報収集したり、調べたりしました。

そのようにして「会食恐怖症」を知り、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会のサポートを受けました。その中で「食べれても、食べられなくても、あなたの価値は変わらない」という言葉には、本当に救われました。何かが出来るから価値があるのではなく「もう既にみんな価値があるのだよ」という考え方に、とても安心感と温かみを感じました。どちらでも変わらず同じ価値ある人間ですし、小学校の先生にも、特に大切にしてほしい考え方だと感じています。(40代・女性)」

来月は完食ご褒美シールがプレッシャーになっていませんか?をテーマにした内容の掲載を予定しています。

また、初めてきゅうけんに訪れた方は「はじめましての方へ」もご覧いただくと、調査に基づいた給食指導の現状などもより理解することができます。

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本記事の担当編集者
山口 健太

『月刊給食指導研修資料|きゅうけん』 編集長
株式会社日本教育資料 代表取締役
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会 代表理事

岩手県盛岡市出身。学生時に「会食恐怖症」を発症し、他人と食事ができなくなった経験を持つ。その中で「食べられない」ことへの適切な対応や支援が、子どもたちと関わる教育者に広まっていないことを痛感。メディア「月刊給食指導研修資料|きゅうけん」を立ち上げ「楽しく食べることが、社会の幸せを作る」という思いで活動している。著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)ほか数冊。

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