毎月、先生のための給食指導に関する情報を、分かりやすく1枚の資料にまとめ、文章でも詳しくお届けします。
資料はご自由に印刷していただいて構いません。小中学校・保育所での給食指導、クラス担任を持つ先生へ配布する資料としてご活用できます。また、新任の先生や職員室内・職員会議にて、全職員に回覧していただくことで、組織全体の業務改善・トラブル回避にもつながります。(資料のダウンロードリンクは記事目次のすぐ下にあります。)
今月は「子どもが嘔吐した時に思い出したいこと」をテーマにして、声かけのポイントや知っておくと子どもや周りの職員の助けになることついてをお伝えします。
●その他、本テーマに関連する解説記事はこちら
▶︎【図解】SOSのサインかも!子どもが給食を食べるのが遅い・吐き出す
▶︎【図解】子どもが食事を吐き出した時に、周りの大人はどうしたらいいのか?
どうしてる?子どもの突然の嘔吐
※「子どもが嘔吐した時に思い出したいこと」のPDFはこちら(右クリックで保存できます)
子どもは給食時間中に限らず、突然嘔吐することがありますが、いきなりのことにビックリしますよね!
その際、水分補給や消毒などの事後処理を行うとは思いますが、嘔吐した子どもやそれを目撃した周りの子どもの心のケアをどうしていますか?またその際に、どのような声をかけているでしょうか?
嘔吐するという事は、吐いた本人や、それを見てしまった周りの子どもたちにとっても、大変ショッキングな出来事として記憶に残る事があります。
その時に、吐いたことをひどく怒ったり、責めたりしてしまうと、子どもは「吐くのはいけないことなんだ!」というように強い記憶が定着してしまうことになります。しかし本来、嘔吐することは人間の生理的な反応であり、たとえば食中毒から回復するためなど、生命を守るために必要な行為です。そもそも、吐きたくて吐くというケースは稀です。
ですから怒ったり、責めたりするのではなく「大丈夫だよ」なとの声かけをベースに、安心させることを心がけましょう。
そしてここからは、子どもの嘔吐に関連することで知って欲しいことがあり、それについてまとめます。もし、給食時間に限らずですが「子どもが吐いた!」ということが起きたら、以下の情報もぜひ思い出してください。思い出していただくことで、子どもや周りの大人にとって大きな助けになることがあります。
知ってる?嘔吐恐怖症
今回、お伝えしたいのは「嘔吐恐怖症」という不安障害と「子どもが吐いた時の周りの大人の対応の関連性」についてです。
まず嘔吐恐怖症は「気持ち悪くなることや、吐くことに対して、健全ではないレベルでの不安や恐怖を感じ、日常生活に大きな支障が出る精神疾患のこと」で「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)」では、
・Specific Phobia 限局性恐怖症
に分類されています。(嘔吐恐怖症以外のものでは「高所恐怖症」、「動物恐怖症」、「閉所恐怖症」などがよく知られているものとしてあります。)
具体的には、気持ち悪くなることや吐く事が怖いことから、
- 人と食事をすることができない
- 電車や飛行機などの乗り物に乗ることができない
- (おえっとなるのが怖いので)歯磨きができない・歯医者に行けない
- 健康診断(主にバリウムを用いた検査)を受けることができない
- つわりが怖くて妊娠をためらう・結婚に前向きになれない
- 子どもが吐いてしまった時の介助ができないため子育てができない(子どもと接する仕事をしている方にとっては業務に支障が出る)
- 吐き気を伴う感染症が流行る時期に外出できない
- 吐瀉物があるかもしれないので繁華街や駅、居酒屋やカラオケに行けない
- 薬の副作用に「吐き気」と書いていると服用することができない
- その他、日常生活で吐くことに関連すること(文字やテレビなどの映像も含め)を見るのが怖く、避けてしまう
など、多少の個人差はありますがこのような悩みの傾向があります。
そして発症時期は「子ども時代」に多いことが以下の調査結果から分かります。
また、発症のきっかけとして「嘔吐に関するトラウマ的な体験」などを挙げることが多く「周りの大人に怒られたこと(怒られているのを見たこと)」などを挙げる場合もあるのです。
つまり、子どもが吐いた時に周りの大人がどう対応するかが、とても大切ということです。
詳しくは「【図解】先生でもわかる嘔吐恐怖症」もご覧ください。
給食を食べない理由はさまざま
以前「子どもが給食を食べられない3つの理由」という記事の中で、子どもが給食を食べられないことには理由があることをお伝えしました。
今回の「嘔吐恐怖症(吐くことや気持ち悪くなることへの恐怖)」も、精神的な理由の1つに当てはまります。
以下より、実際の当事者の声も紹介します。
しかし、小学3年生の頃に再び給食の時間中に吐いてしまい、また給食が食べられなくなりました。その時の担任の先生も食べられないと怒るタイプの先生で、だいぶ苦しかったです。先生が変わる小学6年生まで給食が食べられず、この小学3年生から6年生までの3年間が自分の中で強烈に嫌な記憶として残っており、今の嘔吐恐怖症や会食恐怖症に繋がっていると思います。
今でもあまり親しくない人との外食が苦手で、遊びに誘われても行くかどうか考えてしまいます。親戚などの集まりの会食も苦手です。(20代・男性)
こういった精神的な問題に対して「気の持ちようだ」の一言で済ませてしまうと、子どもは心を閉ざしてしまいます。気が保てないほどの大きな不安に襲われているのです。
大切なのは傾聴し、本人の不安な気持ちをまずしっかりと認めた上で、安心した環境を作ってあげることです。
先生が悩んでいる場合も
ちなみに今回紹介した「嘔吐恐怖症」は、子どもに関わる仕事をしている方の中にも、悩みを抱えている場合があります。
例えば「他人の吐瀉物を見ると気持ち悪くなり、そこから自分も吐いてしまうのではないか」という恐怖が強いため、吐瀉物の処理ができなかったり「気持ち悪くなることを避けたい」という心境から、トイレ掃除が大の苦手な方もいます。
そして本人たちはそれに対して、申し訳なく思っている反面、なかなか理解されずに悩んでいるケースが殆どです。あなたの職場の中にもいるかもしれませんので、まずは今回の情報を職員間で共有し、話題にしてみましょう。
最後に
いかがでしたか?
ぜひ、給食時間に限らず「子どもが吐いてしまった」という場面の遭遇したら、今回の内容を思い出して、吐いてしまった本人や周りに対して、安心してもらうような声かけをしてあげましょう。
また、関連する内容として「会食恐怖症」や「子どもが食事中に食べる物を吐き出したらどうする」という内容についても以前、イラスト付き資料でまとめています。「先生でも分かる会食恐怖症」や「子どもが食事を吐き出したらどうする?」などもぜひ、ご覧ください。
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