毎月、先生のための給食指導に関する情報を、分かりやすく1枚のイラスト付きの図解資料にまとめ、文章でも詳しくお届けします。
資料はご自由に印刷していただいて構いません。小中学校・保育所での給食指導、クラス担任を持つ先生へ配布する資料としてご活用できます。職員室内・職員会議にて、全職員に回覧していただくことで、組織全体の業務改善・トラブル回避にもつながります。(資料のダウンロードリンクは記事目次のすぐ下にあります。)
今月は「子どもの食事における声かけ変換表」がテーマです。文科省の『食に関する指導の手引き』などを参考にしながら、保育園や小学校での給食指導の時に、パッと見てすぐに使える「声かけ変換表」を作成しました!
本解説記事では「どうしてこの声かけが有効なのか」についても解説していきますので、ぜひ以下よりお読みください!
- 「変換表」を参考にしながら、子どもとの食事場面での声かけを身につけよう
- ワンポイント解説で給食指導と声かけの要点を理解する
- 給食指導は時代と共に変化!時代錯誤にならないように注意しよう
●その他、本テーマに関連する解説記事はこちら
▶︎【図解】給食指導「減らしたら全部食べなさい!」ってどうなの?
食事の場面で子どもにどんな声かけをしていますか?
※「給食指導の声かけ変換表」のPDFはこちらから保存・ダウンロード
※「給食指導の声かけ変換表その2」のPDFはこちらから保存・ダウンロード
普段、研修会などでよく「給食時間で子どもにどんな声かけをしたら良いか分からない」という声を先生方からいただきます。
今回はその疑問に少しでも応えるべく「声かけ変換表」を作成してみました!
※便宜上「食べるのが遅い子には〜」「姿勢が崩れている子には〜」などと表現をしていますが、そのようになっているのには様々な理由・背景がありますので、声かけだけでは解決しない場合もあります。それをご理解の上で参考にしてみてくださいね。
声かけ変換表とワンポイント解説
※子どもの食を広げるためには、色々な声かけがあると思います。Afterの声かけはあくまで一例として参考にしてください。
残してしまう子
残さず食べなさい!→どれくらいだったら食べられそう?
解説:
「残さず食べる」指導がプレッシャーになり、食欲低下を招くことがあります。こちらに関しては「完食指導が原因の1位?会食恐怖症とは」を一度読んでみてください。また小食の子に対して「もうちょっと食べないと大きくなれないよ」という声かけをしてしまうことがあると思いますが、その場合は「どのくらいだったら食べられそう?」などの方が、子どもに寄り添った声かけになりますね。
食べるのが遅い子
早く食べて!いつまで食べてるの?→どこまで食べたらごちそうさまにする?
解説:
そもそも食べるのが遅いのには理由があるので、それに対して怒っても解決しないことがあります。食べるのが遅い子について詳しく知りたい場合は「【図解】どうする?食べるのが遅い子ども(保育園児・小学生向け)」の記事などでも解説しています。またごちそさまのタイミングについては「幼稚園・保育園でも給食の居残りはしてはいけない?」の記事でも解説しています。
全く口をつけようとしない
ひと口は食べなさい→ぺろっとしてみたら?においだけかいでみたら?/(混ざっている料理などに)どれが苦手そう?
解説:
つい「ひと口食べなさい!」などと言ってしまいますが、実はそれは子どもにとって大きいハードルです。もっと細かいステップを刻んでみてください。詳しく知りたい場合は「【5ステップ】食べない子になんて声をかけたらいい?」の記事を参考にしてみてください。
子どもが食事を吐き出した/口から出した
お行儀悪いから吐き出さないの!→飲み込めなかったら、ここ(お皿、ボウル、ティッシュ等)に吐き出してね
解説:
特に小さい子は食べられないことを「口から吐き出す」という形で表現することがあります。それを怒ると「そもそも口に入れなくなる」などの問題が発生します。詳しく知りたい場合は「【図解】子どもが食事を吐き出したら思い出したいこと」を参考にしてみてください。
苦しそうに食べている
頑張れ!→無理しなくて大丈夫だよ(既に頑張っていることが多い)
解説:
「頑張れ!」という声かけは、既に頑張って食べている子どもにとっては、苦しませる一言になる場合があります。そもそも既に頑張っていることが多いからです。また、食べられない場合は理由があるので「子どもが給食を食べられない3つの理由」を参考にしてみてください。
苦手なものや、普段より量をたくさん食べられたとき
すごいね!→○○食べられたね!
解説:
成長を一緒に喜ぶことは大切ですが、褒めすぎる必要はありません。詳しく知りたい場合は「【保育園・小学校給食】食べ過ぎの助長にも?よく食べる子への声かけは超重要!」を参考にしてみてください。
「辛い」「苦い」など味の文句に対して
わがままばっかり言わないの!→大人の味がわかるんだね!
解説:
味の文句は歓迎しましょう!なぜなら、その子が食べたものに対してどう感じているかが分かるからです。それが分かれば、食を広げるためのアプローチがやりやすくなります。
給食をたくさん減らす子
減らしすぎ!→今日はあまり食欲ないの?
解説:
給食を減らすのは悪いことではありません。文科省の手引きを参考にすると、偏食の場合などは特に「子ども自身が食べる量を決めること」が大切にされています。
姿勢が崩れてる
お行儀悪いからちゃんとしなさい→両足を床につけて食べようね/〇〇さんの背中がピンとしていて素敵だなぁ
解説:
姿勢やマナーを教えることが大切ですが、そのことへの言及が多すぎて、子どもが食事を嫌いにならないように注意しましょう。
おしゃべりがとまらない
静かにしなさい!→「これくらい(ひそひそ)」でしゃべれるかな?/○時になったら、ごちそうさまだよ
解説:
怒るよりも、具体的にどのようにしたら良いのか、このままだと、どうなってしまうのかについてを伝えてあげることの方が効果的な場合があります。
お箸などを落としてしまった
落とさないようにしなきゃダメでしょ→洗っておいで
解説:
わざと落とすケースではない限り、落としてはいけないことは分かっています。ミスを責める必要はありません。
声かけ変換表その2とワンポイント解説
続いて「声かけ変換表その2」の解説です。
「ひと口食べてみたら?」と勧めたら、ひと口食べられた
「もうひと口!」(約束破り)→「○○食べられたね!」
解説:
「ひと口食べてみたら?」と勧めた後に「もうひと口!」とやってしまうと”約束破り”になってしまいます。そうすると、次から「ひと口食べてみたら?」と勧めても「また嘘をつかれるぞ」と警戒して食べなくなってしまうので、やらないようにしましょう。
食べ過ぎてしまうとき
「○○ばかり食べちゃダメだよ」→事前に食べすぎるものの量を減らす/おかわりのルールをしっかり決める
解説:
食べ過ぎてしまう時は、食べ過ぎるものの量を減らしたり、おかわりのルールをしっかり決める(例:好きなものだけおかわりしてはいけない)等、声かけに頼らない工夫を考える方が、上手くいくことがあります。
食べ物で投げたり、遊んでしまう
「やめなさい!」「○○したらダメでしょ」→やって欲しくないことには反応しない
解説:
年齢が大きくなって言葉が理解できるようになってきたら、やって欲しくないことや好ましくない行動に対して、注意をすることも大切です。しかし、まだあまり言葉が理解できない年齢の場合は、注意をすることで、注目されたことを嬉しいと感じて、もっとその行動をすることがあります。注意をしてもその行動が続く場合は、反応をしない、注目をしないようにするということも1つの方法です。
立ち歩いたり食事に集中できない
「ちゃんとしなさい」→「席に戻ろうね」/「椅子に座ろうね」
解説:
年齢が小さければ小さいほど、怒ったりするよりも、やってほしい行動を具体的に伝えるようにしましょう。
食事を残してしまうとき
「もったいない!」「感謝して食べなさい」→残したものから食べられない理由を考える
解説:
食べられるんだったら食べたいけど、何かしらの理由で食べられないケースが殆どです。残すから感謝していないわけではないはずです。こういった場合はまずは「食べられない理由」を考えるようにしましょう。「子どもが給食を食べられない3つの理由」が参考になります。
声をかけても無反応
一生懸命に声をかける→そっとしておく/「ここまで食べられたね」
解説:
食が進まずに、心配で声をかけても無反応なケースもあると思います。その場合は過度に注目して欲しくない場合もあるので、ほっておいた方が心理的に安心するケースもあります。また、食べられている食材などに注目して「これを食べられたね」とか「ひと口は食べられたね」、「半分は食べられたね」など出来ていることを見てあげることも大切です。
早食いをしてしまう
「よく噛んで食べなさい!」→「○○回噛むと味が変わるよ」/「どんな味がするか教えて?」
解説:
「よく噛んで食べようね」が悪いわけではないですが、「○○回噛むと味が変わるよ」「どんな味がするか教えて?」など、より噛みたくなるような伝え方をすることでよりしっかり咀嚼を意識するようになります。
大人が口に運ばないと食べない/あーんして欲がる
「自分で食べなさい!」→「スプーンに乗せるところまでね」「1回だけ一緒に食べたら自分で食べようね」
解説:
「ダメだよ」というよりも「ここまでやったら、自分で食べようね」というような関わり方にすると、自分で食べてくれることが多いです。(コミットメントの法則により、約束を守ろうとする心理が働くため)
食べ物のにおいを嗅ぐ
「お行儀悪いからやめなさい!」→「どんな匂いがした?」
解説:
上記5つのステップからも、においを嗅ぐだけでも大切な、食べられるまでの過程です。怒らないようにしましょう。
ぺろっとだけ舐めた
「お行儀悪いからやめなさい!」/「ちゃんと食べなさい」→「○○に口をつけられたね!」
解説:
こちらも先ほどと同様の理由です。ペロッと舐めるだけでも食べられるまでの過程の1つなので、怒らないようにしましょう。
嚥下が難しい食べ物を食べようとしている
「気をつけてね」「よく噛まないと危ないよ」→食べられなかったら、ここ(お皿、ボウル、ティッシュ等)に出しても大丈夫だよ
解説:
「気をつけてね」「よく噛まないと危ないよ」などの言葉かけの場合、警戒することで嚥下に関わる筋肉が緊張して、より飲み込みづらくなります。それよりも「食べられなくても大丈夫だよ」という環境を整えてあげた方が、うまく嚥下できることが多いです。
給食指導は時代と共に変化!
昔であれば「残さず食べなさい」という指導は当たり前のように行われていましたが、現在は完食指導は推奨されていません。
文科省が発行する『食に関する指導の手びき(第二次改訂版)』でも”まずは苦手な食品の匂いをかぐだけ、ごく少量を食べてみるなど、偏食の原因を軽減するための取組を段階的に行います。”、”日々の給食指導においては、児童生徒自身が苦手な食品についてその日食べる量を決定し、完食することを目標とした個に応じた指導を継続的に行います。”という表記がある通りです。
時代と共に給食指導のあり方や声かけも変化していますので、時代錯誤の給食指導にならないように気をつけましょう。
最後に
私がよく研修会などでお伝えしていることがあります。
それは「まずは私たちが、子どもにとって一緒に食べたい人であることが大切」ということです。その信頼関係が食を広げる土台となります。
その他「声かけ」については以下の記事なども参考にしてみてください。