【根拠】やり方の話がうまくいかないのは、給食指導には決まった正解がないからです。栄養面、子どもの発達、園や学校の方針、自分が子どものころに受けた指導……どれも大切な視点です。正解のない議題では、声が大きい人・立場が上の人の意見が通りやすく、決まっても現場では元に戻ります。
【本記事を読むメリット】次の話し合いから試せる「話し合いが盛り上がる議題の立て方」を解説します。さらに、いまご自身の園や学校が話し合いがどこまで進んでいるかが分かる「5つのステージ」も紹介します。
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※Vol.60『給食指導の話し合いがまとまらないときは?』(PDFを保存できます)
「給食指導のことを他の先生と話したいけれど、なかなか話せない」
「会議で話題にはするけれど、いつも当たりさわりのないところで終わってしまう」
研修や個別のご相談でこうしたお声をとてもよくいただきます。保育園の給食会議でも、学校の職員会議でも同じです。そして会議の場だけでなく、日々のちょっとしたやりとりの中でも同じことが起きています。
言いたいことがあっても言えない。どう切り出したら良いか分からない。そんな状況は決して珍しくありません。
そして多くの方が、「自分の伝え方が下手だからかな」「立場が下だから聞いてもらえないのかな」と、ご自身を責めてしまっています。
でも、原因はそこではないかもしれません。
今回は「議題」という一点に注目して、話し合いが深まり、対応につながっていく進め方をお伝えします。
なぜ、給食指導の話し合いはまとまらないのか?
結論:悩みの2位が「他の先生と意見が合わない」。給食指導には決まった正解がないため、やり方を話し合うと決着がつかなくなります。
まず知っておいていただきたいのは、これに悩んでいるのはあなただけではないということです。
先生114名を対象にした調査(2025年)で、「給食指導で1番苦労していること」の回答は次の順位でした。

5人に1人以上が「給食指導に対する園や学校の方針、また他の先生との意見が合わない」をいちばんの苦労として挙げているということです。
詳しい調査結果は「Vol.54 先生114人に聞いた!給食指導でのコツや大切なこと&悩みの1位は?」に掲載しています。
なぜ「やり方」の話し合いは決着がつかないのか?
給食指導には、いろいろな考え方があります。
- 栄養面から見た考え方
- 子どもの発達から見た考え方
- 園や学校に昔からある方針
- 自分自身が子どものころに受けた指導の記憶
どれも必要な視点です。だからこそ、「どんなやり方がいいか」を話し合うと、平行線になりやすい性質があるのです。
まとまりにくいパターン:「どんなやり方がいいか」を話している
結論:正解のないテーマを話すと、声が大きい人・立場が上の人の意見が通りやすくなります。

たとえば、こんな議題です。
- 「完食を目指すべきか」
- 「促すのはどこまでOKか」
- 「食育としてどうあるべきか」
どれも大事なテーマです。でも、どれも「その人の考え方」がぶつかる話になります。そして次のような流れをたどります。
- 考え方は人それぞれで、決まった正解がないものもある
- だから決着がつかず、堂々巡りになりやすい
- 結果として、声が大きい人・立場が上の人の意見が通りやすくなる
- 反対はしにくいので、決まっても現場では元に戻ってしまう
とくに厄介なのが、4つ目です。保育園・幼稚園の勤務経験がある100名への調査には、こんな声が寄せられていました。
「職員会議では『完食を強制していません』と言う上司が、給食の時間になると『全部食べてからね』と指導していた」(保育士)
会議で決まったことと、現場で起きていることがずれてしまう。これは決めた内容が悪かったのではなく、決め方に納得が伴っていなかったことのあらわれです。
同じ100名調査では、25.0%(約4人に1人)が「給食指導の方針が一因で退職した、または退職を考えた」と回答しています。話し合いがうまくいかないことは、先生自身がその職場にいられなくなることにもつながっています。
まとまりやすいパターン:「あの子がどうしたら楽になるか」を話している
結論:考え方は人によって違っても、「あの子の姿」はみんなで同じものを見られます。だから意見がぶつかりません。

では、どうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルで、話し合いの中心を「あの子がどうしたら楽になるか」に置き換えるだけです。
このとき、見るところと話し合うところが分かれているのがポイントです。「あの子は今、何に困っているのか」を見て、「どうしたら楽になるか」を一緒に考える。正解を決めるのではなく、その子が楽になる方向を探す話し合いになります。
「見たままの姿」には、誰も反対できない
たとえば、こんな会話です。
- 「◯◯さんは、量を食べられないよね」
- 「どうして食べられないんだろうね?」
- 「もしかしたら、こうしてみたら良いかも」
「◯◯さんは、トマトを口に入れると動きが止まる」という事実に、反対する人はいません。それは意見ではなく、みんなが見たままの姿だからです。

考え方は何通りもあるからぶつかります。でも、目の前で起きている姿は、みんなで同じものを見ることができます。だから、
- 意見がぶつかりにくい
- 立場に関係なく発言しやすい
- 試してみる話なので、反対されない
という状態が生まれます。うまくいかなければ、また別の方法を試せばいいだけです。
原因はすぐに分からなくていい
ここで大切なのは、原因を一つに決めつけないことです。
同じ「食べられない」でも、背景はさまざまです。
- 体調がよくなくて、食欲がない
- 不安や緊張が強くて、食べられない
- 苦手な食感やにおい、見た目がある
- 食べ終わる時間に追われている
しかも、これらは重なっていることもあります。とくに不安や緊張が関わっている場合、本人も理由をうまく言葉にできません。「なんとなく食べたくない」としか言えないことも多いのです。
ですから、話し合いで決めるのは「原因」ではありません。「こうかもしれない」という見立てを複数出し合い、決めつけずに関わりながら確かめていく。これが「あの子の話をする」ということです。
見立てが外れても、まったく問題ありません。「違ったね、じゃあ次はこうしてみようか」と戻れるのが、この進め方の強みです。
食べられない背景の整理については「子どもが給食を食べられない3つの理由」もあわせてご覧ください。
議題を「◯◯さんの給食について」に変えてみる
ここまでの話を、明日の会議でそのまま使える形にすると、やることは一つだけです。議題名を変えます。
- 変える前:「完食指導について」「食べ残しへの対応について」「給食指導の方針について」
- 変えたあと:「◯◯さんの給食について」「1歳児クラスの◯◯さんのこと」「◯年◯組の◯◯さんの給食時間」
たったこれだけで、話し合いの空気は大きく変わります。抽象的なテーマは対立を生みますが、名前のある議題には誰も反対しません。
そして議題が変わると、出てくる発言の種類まで変わります。
- 「ひと口は食べることを促した方がいいか?」→ 自分の考えを述べる場になる
- 「◯◯さんの給食について」→ その子について知っていることを持ち寄る場になる
前者は意見のぶつかり合いになるかもしれませんが、後者は情報が集まっていきます。これが、議題を変えるだけで話し合いが深まる理由です。
議題を立てる人が決まっている場合は、その方に「今月は◯◯さんのことを議題に入れてもらえますか」とお願いするだけでも十分です。自分がファシリテーションをする立場の場合は、会議の前に担任の先生に「■■先生のクラスの◯◯さんのことを話してくれませんか?」と根回しをしておくと、円滑に進みやすいです。
なお、特定の子への対応を話し合うと「そこまで個別対応をしたら『ずるい』のでは?」という声が出ることがあります。その考え方については「Vol.53 食べない子への個別対応は『ずるい』こと?」で解説しています。
給食指導の方針が揃うまでの「5つのステージ」
要点:多くの園や学校はステージ2で止まっています。そして最大の壁は、ステージ2から3へ進むところです。
ここまでお伝えした内容を、園や学校の「現在地」として整理してみました。ご自身の職場がいまどこにいるか、確かめながら読んでみてください。
ステージ1 言えない
気になることがあっても、口に出せない状態です。

保育園なら、先輩のやり方に違和感があっても「それ、大丈夫なんですか?」と言えない。Vol.54の調査にも、こんな声が寄せられていました。
「保育士が無理に食べさせている場面で、栄養士として毅然とした態度を取るべきだったと感じている」(幼保施設の職員)
学校の場合は、さらにそうなりやすいかもしれません。研修でも本当によく聞くお悩みです。
次の一歩:意見ではなく、見たことを一つだけ口に出してみる。
ステージ2 話すけれど、まとまらない
話題にはできるようになった状態です。ただし話の中心が「どんなやり方がいいか」なので、平行線になります。
正解がないので決着がつかず、声が大きい人・立場が上の人の意見が通ります。そして反対はしにくいので、決まっても現場では元に戻ります。
いちばん多いのが、このステージです。会議で給食指導の話は出せた。それなのに何も変わらないという感覚がある場合、ここにいる可能性が高いです。
次の一歩:議題を「◯◯さんの給食について」と名前で立て直してみる。
ステージ3 あの子の話ができる
話の中心が「あの子がどうしたら楽になるか」に変わった状態です。
考え方は人によって違っても、あの子の姿はみんなで同じものを見られます。だから意見がぶつかりません。立場に関係なく発言でき、栄養士でも調理員でも担任でも管理職でも、同じ土俵に立てます。
ここが最大の転換点です。
次の一歩:実際に「工夫できそうなこと」がないかを話してみる。
ステージ4 対応が変わる
見立てから、実際の対応が出てくる状態です。切り方、量、調理法、盛り付け、席、時間。「こうしてみようか」が現場で動き始めます。

以前の読者アンケートでは、このステージにいる園と学校の声もありました。
「栄養士が直接クラスに入って指導することは控え、その代わりに保育士から喫食状況を共有してもらい、子どもを変えるのではなく、調理法や量、盛り付けを工夫している」(幼保施設の職員)
「自校式の場合は、児童生徒のバックグラウンドを把握し、担任と十分にコミュニケーションを取った上で声かけを行っている」(学校の先生)
次の一歩:やってみた結果を、次の話し合いに戻す。
ステージ5 園や学校のやり方になる
個別の対応の積み重ねが、方針として言葉になった状態です。
担任が変わっても引き継がれ、保護者にも説明できます。方針を先に決めて現場に下ろすのではなく、現場の判断を積み上げて方針にしたので、現場に無理がありません。
「やり方を決めて、現場に対応してもらう」という進め方は、一見いちばん早く見えます。でも納得のないまま決まったことは、現場に戻ると元に戻ります。先ほどの「会議では強制しないと言う上司が、給食の時間には全部食べてからねと言う」がまさにそれです。遠回りに見えても、ステージ3を通る必要があります。
学校は「ステージ1→2」の壁が高い?
ここは正直にお伝えしておきたいところです。保育園と比べて、学校のほうがステージ1から2へ進むのが難しい場合が多いです。
園なら毎日のように顔を合わせたり、人数も少ないことが多い。学校では顔を合わせないこともあり、人数も多い。リーダーとなる栄養教諭が1人だったり兼務だったりして、話す機会そのものがありません。「気合いで話しかける」では解決しない問題です。
そこで参考になるのが、以前「きゅうけんWEB新聞」でも紹介した、栄養教諭・太向純子先生の工夫です。食育計画は年度当初に発表しても忘れられてしまうため、2か月に1回、たった2分でもいいので職員会議で時間をとる仕組みを作られていました。

そしてもう一つ、こんな言葉も残されています。
「平等に行かなきゃって思って先生と付き合おうとすると、自分が苦しくなっちゃうので。できるところで先生方とコミュニケーションとって」
全クラスに平等に、と気負う必要はありません。受け入れてくれるクラス、話しやすい先生から始めれば十分です。
栄養士・栄養教諭・調理担当の方の中には「担任というわけでもないのに、自分があの子の話をしてもいいのだろうか……」と言い出しにくさを感じている場合があります。会議で「栄養士さんからは、どう見えますか?」とひと言ふるだけで十分です。発言の機会をつくるのは、責任のある立場の方にしかできない役割です。
なお、方針そのものを職員間でそろえる方法については「Vol.49 給食指導が職員間でバラバラになっていませんか?」でも解説しています。方針の共有はVol.49、話し合いの進め方は今月号とあわせてご覧ください。
よくある質問(Q&A)

Q1.立場が下で会議で発言しにくいです。どう始めればいいですか?
A.意見を言うのではなく、「気づいたこと」を報告する形から始めてみましょう。
「こうすべきだと思います」は意見なので、反論が生まれます。でも「◯◯さん、今日はトマトの皮だけ残していました」は事実の報告なので、誰も反対できません。
事実を出し続けていると、自然に「じゃあ、どうしようか」という話に移っていきます。意見から入らず、観察から入るのが、いちばん安全で確実な入り方です。
Q2.「あの子の話」ばかりしていたら、園や学校としての方針は決まらないのでは?
A.むしろ順番が逆で、個別の話を重ねた先に方針ができていきます。
「うちはこうします」を先に決めようとすると、正解のない議論になります。でも「◯◯さんにはこうした、うまくいった」という事例が積み重なると、それが自然に園や学校のやり方になっていきます。
方針を先に決めて現場に下ろすのではなく、現場の判断を積み上げて方針にする。この順番のほうが、現場に無理がありません。
Q3.忙しくて、話し合いの時間が取れません。
A.新しく時間をつくるより、いまある会議の中で議題を1つ変えるのがおすすめです。
新しく会議を立ち上げるのは、正直かなり大変です。それよりも、すでにある職員会議・給食会議・学年会の中で、「◯◯さんの給食について話してもいいですか?」と議題を入れるほうが現実的です。
毎月1人ずつでも、1年で12人分の理解が園や学校に残ります。
Q4.会議で決めたのに、現場で守られません。
A.「決まったこと」が守られないのではなく、納得されていないことが多いです。
反対しにくい場では、人は黙って賛成します。そして現場に戻ると、自分が納得しているやり方に戻ります。
対策は2つです。ひとつは、正解のないテーマ(やり方の善し悪し)で決を採らないこと。もうひとつは、「決める」ではなく「試してみる」にすること。試してみる話なら、うまくいかなかったときに責められる人がいないので、正直な報告が集まります。
Q5.他の先生と、考え方が違いすぎます。
A.考え方をそろえようとせず、見ているものをそろえてみましょう。
考え方は、その人の経験からできています。だから、話し合いで変えるのはとても難しいことです。
でも、同じ子どもの同じ様子を、一緒に見ることはできます。「あの子、今日はここで止まっていましたね」を共有するだけで十分です。考え方が違っていても、目の前の子の姿を同じように見られていれば、次の一手は一致することが少なくありません。具体的な声のかけ方は「食べない子になんて声をかけたらいい?」も参考にしてみてください。
最後に
今月は「給食会議がうまくいきません」という読者さんからの声を参考に、給食指導のことを他の先生と共有したいけれど、うまく話し合えないときのヒントをお伝えしました。
話し合いは「正解を決める時間」ではありません。あの子のことを、みんなで一緒に考える時間です。
次の会議でぜひ議題に一人の子の名前を入れてみてください。それだけで、話が動き出すかもしれません。
今回の資料が先生方のお役に立てれば幸いです。
追伸.
きゅうけん編集長・山口健太の新刊『いちばんやさしい 保育者のための食べない子サポートBOOK』(中央法規出版)が、発売2ヶ月での増刷が決定しました!
本書では「みんなの給食会議」という園内研修で使えるワークとワークシートを配布しています。ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。
今月お伝えした「あの子の話から始める」を、園全体の仕組みとして実践している園があります。給食を残す子がほとんどいないことで知られる、さくらしんまち保育園(東京都・世田谷区)さんです。今回の資料作成でもヒントにさせていただいており、来月号で園長・小嶋泰輔先生へのインタビュー記事を「きゅうけんWEB新聞」でお届けします。
参考
- 株式会社日本教育資料「給食指導の悩み」に関する調査報告(2025年・n=114/2022年・n=45)
- 株式会社日本教育資料:保育園・幼稚園勤務者100名「給食指導の本音アンケート」調査報告(2026年1月23日〜2月5日実施・n=100)
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