【根拠】食べ物が好きになるかどうかの大きな要素に「食べる前の予想」と「食べた後の実際」のギャップがあります。予告なしの「何か入ってる!」は大きなマイナスのギャップになり、その料理や、勧めた大人の言葉まで警戒する原因になります。また、隠して食べた子は「自分がその野菜を食べた」とは思っていないため、「食べられた」という自信にもつながりにくいのです。
【本記事を読むメリット】子どもが「騙された」と感じやすい場面とその言い換え、そして今日から給食で使える「正直声かけ」3つのコツが分かります。
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「少しでも食べてほしい」
その思いから、その子にとって苦手な野菜を細かく刻んで、何かに混ぜ込んで調理する工夫は一般的には良い工夫とされています。
しかしその時に「苦手なものが入っている」と言わなかったり、食べた後に言ってしまったりしたことはありませんか?
子どもの栄養や成長を思えばこそ、そうなってしまうかもしれません。
ですがそのやり方が、かえって子どもの「食べてみよう」を遠ざけてしまうことがあるのです。
今月は、子どもが安心して「食べてみよう」と思える伝え方を、一緒に考えていきましょう。
その日は食べても、「騙された」が心に残る
編集長・山口健太の著書『いちばんやさしい 保育者のための「食べない子」サポートBOOK』(中央法規出版)でも、この点について解説しています。以下に、その一部を引用します。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。
給食の主菜は「野菜たっぷりハンバーグ」。ピーマンやにんじんが細かく刻まれて、見た目は普通のハンバーグです。
野菜が苦手なAくんが、食べる手を止めて聞きます。
Aくん「先生、これ何か入ってる?」
先生「大丈夫、普通のハンバーグだよ」安心して、パクッとひと口。でも、噛んでいるうちに「……なんか変な味がする」。Aくんは水を飲みながら、なんとか食べきりました。先生は「完食できてよかった」とほっとしています。
ところが1か月後。また同じハンバーグが出た日、Aくんはほんの少しかじっただけで「もういらない」。
さらにその次、野菜の入っていない普通のハンバーグが出たときも、Aくんは手をつけませんでした。「ハンバーグには、何か入っているかもしれない」と思うようになっていたからです。
野菜を食べてほしかったのに、ハンバーグまで食べなくなってしまった。これが、隠して食べさせることのいちばんの落とし穴です。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
同じ「苦い」でも、「やっぱり苦かった」と「え、苦いなんて聞いてない」では、心に残る重さがまるで違うからです。
予告されていた苦さは、「やっぱりね」で終わります。心の準備ができていたので、ダメージは小さくてすみます。
でも、予告されていなかった苦さには、「話が違う」「騙された」という気持ちが乗ってしまいます。この嫌な気持ちは、味の記憶よりずっと長く残ります。
隠して食べたひと口は、「食べられた」にならない
もうひとつ、見逃せない点があります。
隠して食べさせて、子どもが最後まで気づかなかったとします。そのとき、その子は「自分はピーマンを食べられた」と思っているでしょうか?
答えは「いいえ」です。本人は「ハンバーグを食べた」とは思っていても、「ピーマンを食べた」とは思っていません。普通のハンバーグだと言われていたのですから。
つまり、「自分はピーマンが食べられる」という自信は、まったく育っていないのです。
私たちがいつか、この子の食事を用意しなくなる日が来ます。そのとき、この子が自分でピーマンを選べるかどうか。それを支えるのは、「これはピーマン」と分かったうえで、自分で口に運んだ経験の積み重ねです。
「口に入れば成功」ではありません。「分かって、自分で食べた」ひと口が、本当の意味での「食べられた」になります。
出典:山口健太『いちばんやさしい 保育者のための「食べない子」サポートBOOK―偏食・少食のお悩み解決!』中央法規出版、2026年より一部引用。
以下の図解を参考に「食べる前」と「食べた後」のギャップが、苦手意識の生まれ方や、食べられるようになる過程にどう関わるかをイメージしてみましょう。

苦手な野菜を細かく刻んだり、好きな料理に混ぜたりする「調理の工夫」は良いことでも「伝え方」で台無しにならないようにしましょう。
子どもが「騙された!」と感じやすい3つの場面
要点:どれも悪気のない声かけや方法かもしれません。ですが、子どもには「言われたことと違った」と映ります。
「騙す」と聞くと、少し強い言葉に聞こえるかもしれません。実際、大人の側に騙すつもりがないことがほとんどです。
でも、子どもの側から見ると、「言われたことと違った」という体験は、どれも「騙された」になりえます。研修会でお伝えすると「それも?」と驚かれることの多い場面を、3つご紹介します。

①苦手なものが入っているのに、口に入れるまで知らせない
ここまでお伝えしてきた、いちばん分かりやすい場面です。
給食では献立表に食材が書かれていることも多いですが、子どもが毎回それを確認しているとは限りません。
基本的には見た目で味や食感を想像することが多いので、ギャップが生まれないようにすることが大切です。
②苦みや酸っぱさがあると知っているのに、伏せて「美味しいよ」とだけ伝える
「美味しいよ」は、よく使う声かけの一つだと思います。
ただ、苦みや酸っぱさがあると分かっているのに、そのことを伝えず「美味しいよ」とだけ勧めると、子どもは「思っていた味と違った」と戸惑うことがあります。味や食感の特徴も、先に伝えると安心につながります。
また、「美味しいよ」の主語を、自分にしてみるのも良いでしょう。
「先生はこれ、好きなんだ」「ちょっと酸っぱいけど、先生は好きな味だな」等。
これなら、その子にとって美味しくなくても嘘にはならないし、興味を持つ一つのきっかけになるかもしれません。
③「ひと口だけ」と言ったのに、「もうひと口」と強いる
ひと口食べられると、大人はうれしくなって「もう少しいけるかも」と思います。その気持ちは、とてもよく分かります。
でも、子どもにとっては「ひと口だけって言ったのに」です。約束が守られなかった体験になり、次から「ひと口だけ」と言われても応じにくくなってしまいます。
ひと口で「食べられたね」と終わりにする。
もっと食べられそうなら「もっと食べたい?」などと、確認すると良いでしょう。
「この人の言うことなら大丈夫」が、次のひと口をつくる
結論:正直に伝えることは、子どもが「この人の言うことなら大丈夫」と思える関係づくりにつながります。
先ほどの3つに共通しているのは、「言われたことと、実際が違った」ということです。
一つひとつは小さなことでも、重なると「大人の言うことは当てにならない」という気持ちが育ってしまいます。
資料では、2人の子どもの姿を並べました。

過去に「騙された」と感じたことがある子は、大人の「何も入ってないよ」「美味しいよ」「ひと口だけ」を聞いても、「また嘘かも……」と身構えます。
警戒するのはその料理だけではありません。その大人が勧めるもの全部です。そして、本当に美味しいものを勧めても、言葉が届かなくなってしまいます。
一方、これまで正直に伝えてもらってきた子は、「苦いかもしれないから気をつけてね」「先生はこれ美味しいから好きなんだ」「これは〇〇さん、好きだと思うよ」と言われると、「それなら食べてみようかな……」と思えます。
違いを生んでいるのは、言葉そのものではなく、それまでの積み重ねです。
「じゃあ、いらない」も大切な反応
正直に「ピーマンが入っているよ」と伝えたら「じゃあ、いらない」と返ってくることもあるでしょう。
でも、それはわがままではありません。自分の苦手を自分で分かって、自分で判断できているということです。
その日は食べなくても大丈夫です。「先生は、本当のことを言ってくれる」という安心は、その日もちゃんと積み重なっています。
その子の気持ちを受け入れた上で、食べられるものを広げる方法に関してまとめている記事や資料は、本記事の最後に紹介させていただきます。
大切なのは、今日食べたかどうかより「この人の言うことなら大丈夫」と思えること。その安心が、次のひと口につながります。
給食でも使える「正直声かけ」3つのコツ
要点:食材の名前を伝える・味や食感を予告する・言ったことは守る。この3つです。
①食材の名前を伝える
「今日のハンバーグには、ピーマンが入っているよ」
正体が分からないものは、大人でも怖いものです。何が入っているか分かれば、心の準備ができます。「これ何?」という不安を、先に取り除いてあげましょう。
②味や食感を予告する
「ちょっと苦いかもしれないよ」「このいちご、酸っぱいかも」
ポイントは、良くないかもしれないことも、先に伝えておくことです。
予告どおりなら「やっぱりね」で終わります。予告より良ければ「意外といける!」になります。この「意外と」が、好きになるきっかけになります。
③言ったことは守る
「ひと口だけね」→(ひと口食べたら)「食べられたね」
約束が守られると、子どもは次のひと口にも安心して挑戦できるようになります。「この先生の『ひと口だけ』は、本当にひと口だけ」という信頼が、次の挑戦を支えます。
よくある質問(Q&A)

Q1.正直に言ったら、食べなくなりませんか?
A.その日は食べないかもしれません。でも長い目で見ると、勧めたものに口をつけてくれることが増えていきます。
最初は警戒して、手をつけないこともあると思います。
でも、正直に伝えることを積み重ねていくと、子どもは「この先生は、苦手なところをちゃんと分かって、先に教えてくれる」と感じるようになります。その安心があるから、勧められたものを口に入れられるようになるのです。
Q2.献立表に書いてあれば、隠していることにはなりませんか?
A.献立表に書いてあっても、子どもが見ていなければ「知らされていない」のと同じです。
とくに幼児や低学年の子は、献立表を確認してから食べる習慣がないことが多いです。高学年でも、毎日きちんと見ている子は少ないかもしれません。
配膳のときや「いただきます」の前に、苦手そうな子にだけでもひと言そえることをおすすめします。
Q3.「美味しいよ」と声をかけるのも、いけないのでしょうか?
A.いけないわけではありません。「先生はこれ、好きなんだ」のように、自分の感想として伝えるのがおすすめです。
教室にはたくさんの子どもがいて、同じ料理でも感じ方は一人ひとり違います。先生が「この子にとって美味しいかどうか」を見きわめるのは、とても難しいことです。
だからこそ、「(あなたにとって)美味しいよ」と子どもの感じ方を言い切るのではなく、「先生は好きなんだ」「先生は美味しいと思うな」と、自分を主語にして伝えてみてください。いわゆる「Iメッセージ」です。先生自身の感想なので、子どもが美味しくないと感じても、嘘にはなりません。
ひとつだけ気をつけたいのは、「先生は美味しいと思うんだけどな……」のように、残念そうな語尾にならないことです。「なのに、どうして食べないの?」という気持ちが伝わると、子どもにとってはプレッシャーになってしまうかもしれません。
子どもが食べなかったときも「そっか」で終われると、先生の「好きなんだ」は、子どもが安心して聞ける言葉になります。
Q4.これまで隠して食べさせてしまっていました。今からでも間に合いますか?
A.もちろん間に合います。今日から正直に伝えることを、積み重ねていきましょう。
これまでの関わりは、「少しでも食べてほしい」という思いからのものだったはずです。ご自身を責める必要はありません。
すぐには信じてもらえないこともあるかもしれません。でも、正直に伝える経験を重ねるほど、信頼は少しずつ戻ってきます。焦らず、長い目で見ていきましょう。
Q5.保護者から「家では混ぜて隠して食べさせている」と相談されたら、どう伝えればいいですか?
A.まずはその工夫と気持ちを認めたうえで、「伝え方を足す」提案をしてみてください。
食べない子の保護者は、毎日の食事でたくさん悩み、工夫を重ねてきています。そこで「隠すのはよくないですよ」と言われると、これまでの努力を否定されたように感じてしまうかもしれません。
「工夫してくださっているんですね」と認めたうえで、「入っていることを伝えてから出してみると、自分で食べられたという自信につながるかもしれません」と、今のやり方に足す形で伝えると、受け取ってもらいやすくなります。
最後に
今月は、苦手な食材を混ぜ込んで調理するときの伝え方や、子どもが「騙された」と感じやすい声かけ・方法について考えてきました。
- 隠して食べさせたことがバレると、そのときは口をつけても「騙された」が心に残り、次から食べなくなることがある
- 隠して食べたひと口は、「食べられた」という自信にはつながりにくい
- 刻む・混ぜるなどの工夫は良いケースが多いが、だからこそ「伝え方」を変えてみよう
- 「知らせない」「苦みや酸っぱさを伝えず、『美味しいよ』とだけ勧める」「ひと口だけ→もうひと口」は、子どもには「騙された」と映りやすい
- 正直声かけ3つのコツ「食材の名前を伝える」「味や食感を予告する」「言ったことは守る」
「少しでも食べてほしい」という気持ちは、子どもを大切に思っているからこそのものです。だからこそ、その気持ちがきちんと届く伝え方を知る必要があります。
その子の気持ちに寄り添った「おいしいよ」「食べてみたら?」は、ちゃんと子どもに届きます。今回の資料や記事が、先生方のお役に立てれば幸いです。
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